サクセスストーリー (annann/popye1983年4月号附録)
『若き成功者たちの肖像 〜 野口伊織』
同じような店を何10軒作っても、ちっとも面白くない
好きに生きて、人を感動させる店を作れればいいんだ
1982年7月、渋谷パルコパート。の隣に、カフェバー『SOMETIME』をオープン。これが、10軒め。
67年『ファンキー』、69年『be bop』(現在はなし)、72年『out back』『赤毛とそばかす』、74年『西洋乞食』、75年『SOMETIME』(吉祥寺)、77年『ハム&エッグス』、78年『チャチャハウス』、80年『ココナッツグローブ』『レモンドロップ』。
16年前に10軒(やめたり違う店に作り変え数も含めれば、もっと)というのは、すごい。
「すごくなんかないよ。そのときどきやりたい店を作ってきたらこうなったというだけで。でも、打率としてはいいほうかな、8割5分っていう成功率だからね。だけど、店の件数じゃないと思うな、問題は。僕の店が全部違うスタイルなのはどうしてかっていうと、常にいろんな雑誌見たり映画観たり、その時代にとり残されないセンスで店を作るのが、楽しいからなんだよね」
店作りが趣味みたい。それで10軒のオーナーというのは、やっぱりすごい。
「そうでもないけど、たしかに遊びが仕事みたいなものだね。新しい店を開店するときは、アイデアが浮かぶと、夜中でも飛び起きて構想を練ったり。映画なんかもいいヒントになる。吉祥寺の『SOMETIME』は『ウエストサイド物語』をヒントに設計家と相談して作った店だし。アンチックからイメージが広がることも多いね」
趣味や遊びから時代にウケるイメージをつかんじゃうというのは、やっぱりすごい実業家の才能だと思うけど。
「いやいや、僕は実業家じゃないよ。事業欲はないもの。ただ、店を通して人を感動させられたらいいなあと思うだけ。そういう店を作りたいんだよね」
話しているうちに夜になって。
「お腹空かない?食事にしましょうよ。えーと、どこがいいかな。いい店知ってますか」
といって広げた黒革の手帳には、店のリストがズラリ!こちらが提案する余地はありません。降参。
「夜はいつも外食だから。面白い店ができたって聞くと、必ず行ってみるんだよね。えーと、それじゃ今日は…」
さすが遊びの、失礼、仕事の鬼!
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