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スウィングジャーナル (2000年2月号)

よそ様のリーダー盤で本質を堪能できてしまう。そこがマクリーンぽいのだ

ジャッキー・マクリーンが全てであった。ジャズに熱中し始めた頃、マクリーンを聞きまくった。彼のアルト・サックスのホーンからほとばしり出る音が、心をするどく抉るのである。シャープかつ粘着質の音は、ミステリアスな雰囲気をかもし出す。手慣れているとか、スムーズさとか、職人的な巧さとかは無縁である。むしろ不器用なテクニックに彼の真骨頂があるのだ。
当時のジャズの全てのエッセンスを凝縮したような、また先進性を一身に背負ったカリスマ、マクリーン。渠の音のまっただ中に身を置くと、何ともいえない充足感に満たされた。
我が愛しのマクリーンの唯一の敵はキャノンボール・アダレイであった。敵は品性には欠けるが、なかなかの使い手である。スピードはマクリーンのはるか上を行き、プロペラ機とジェット機くらいの差はあるだろう。それにコルトレーンの影響もあり、フレーズの展開も数学的に言えば、微分積分の分野に踏み入れている恐れがある。テクニックも抜群である。音のヌケと流麗な指さばきは聞いていてもどっしりした安定感がある。さらに音程がとてもしっかりしている。キャノンボールのアルバムで音程の悪いものなんてお目にかかったことがない。まあ一流のミュージシャンなら、当たり前のことだけれど。新しい試みに対するチャレンジも盛んであった。ジャンルが広く、ファンクの分野でもめざましい働きを見せる。<ワークソング><ダット・デア>などは当時のヒット曲として、幾度となく演奏された。
それに引き替え、我がマクリーンはチャレンジ精神は旺盛だが、イマイチ売り方がうまくない。ファンクの商人とまで言われたキャノンボールの猛烈セールスマンぶりに比べ、上役に睨まれているマイペースな営業マンである。しかし不器用でも、素朴なマクリーンのフレーズは心に染みるのである。ピッチが上ずる事が多いが、それも彼の雰囲気作りの一つである。一音一音にしみじみと魂がこもっている。音を垂れ流さず、大事に、大事に組み立てて行く。いかにも技巧派風にパラパラ吹き流すキャノンボールとは、同じ楽器とは思えないほど隔たりがあるのだ。
何と言ってもマクリーンの最大のヒットは、<レフト・アローン>であろう。マクリーンのなを知らなくても、マル・ウォルドロンの<レフト・アローン>を知らない人は少ない。同アルバムの中でも他の曲は添え物である。たった一曲だけマクリーンが参加したトップの一曲目だけが、大ヒットしたのである。他人のリーダー・アルバムで最大のヒットと言うのもいかにもマクリーンらしいではないか。
<枯葉>の入った『サムシン・エルス』のマイルスのソロは、あまりにも有名である。それでも契約の関係で、ちゃっかりキャノンボールがリーダーに収まっているのが気に入らない。<枯葉>のマイルスのソロとキャノンボールのそれとは、月とスッポン、いや月と銭亀の違いくらいはあるだろう。マクリーンのように謙虚になれ!リーダーを立てろ!ときつく言いたい。
またまた他人のアルバムである。マクリーンのヒット・アルバム、ナンバー2は、ジャズをかじったことのある人なら、誰でもご存知のあの『クール・ストラッティン』である。ソニー・クラークと言うより、マクリーンがリーダーであると勘違いしている人のほうが多いのではないか。それ程この盤はマクリーンのイメージが強く、また彼の本質、才能を世に知らしめたアルバムなのである。マクリーンがリーダーになると、ちょっぴり知的で攻撃的になって、一般にはハードルが高くなる。『ニュー・ソイル』『4,5&6』とか『マクリーンズ・シーン』なんか大好きだが、あまりにも上位2舞の存在は大きい。全てを聞きたくなるのは、やまやまだが、そのよそ様のリーダーのアルバム2枚で充分マクリーンの本質を堪能出来てしまう。とても損な役割だが、またそこがマクリーンのマクリーンたるところなのだ。


 
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